- 親から相続したアパートに入居者がいる
- 自分で賃貸経営を続ける自信がなく、できれば売却したい
そのような状況で、入居者が住んでいる物件は売れないのではないか、退去をお願いしなければならないのかと不安になる方は少なくありません。
入居者がいる賃貸物件でも、賃貸借契約を引き継ぐオーナーチェンジという形で売却を検討できます。ただし、一般の空き家とは買主や価格の見方が異なり、契約書、家賃、敷金、滞納、修繕履歴などの整理が重要です。この記事では、入居者の暮らしに配慮しながら、相続した賃貸物件を売却する手順と注意点を分かりやすく解説します。
入居者がいる相続不動産も売却を検討できます
賃貸中の建物を、入居者が住んだまま投資用不動産として売却する方法を「オーナーチェンジ」と呼びます。売買によって所有者が変わり、新しい所有者が貸主として賃貸借関係を引き継ぎます。
買主は、自分で住む人ではなく、家賃収入を得たい投資家や不動産会社が中心です。そのため、室内の広さや設備だけでなく、年間家賃、空室率、管理費、修繕費、契約条件などから収益性を判断します。
最初に確認したい8つの項目
| 確認項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 不動産の名義 | 相続登記や売却に関与する相続人を整理します。 |
| 賃貸借契約書 | 契約期間、賃料、更新、修繕、特約を確認します。 |
| 家賃の入金状況 | 滞納や入金先の変更漏れがないか把握します。 |
| 敷金・保証金 | 買主へ引き継ぐ金額と精算方法を確認します。 |
| 管理委託契約 | 管理会社との契約、解約条件、手数料を確認します。 |
| 修繕履歴 | 建物の状態と将来必要な費用を説明する資料になります。 |
| 連帯保証人・保証会社 | 滞納時の連絡先や保証契約の承継可否を確認します。 |
| 固定資産税・ローン | 売却後の手取り額を見積もるために必要です。 |
書類がすべて揃っていなくても、分かる範囲から整理できます。契約書が見つからない場合は、通帳の入金記録、管理会社の報告書、更新書類、入居者との連絡記録も手掛かりになります。
オーナーチェンジ売却のメリット
入居者に退去を求めずに進められる
入居中の状態を前提に販売するため、退去交渉を売却の条件にする必要がありません。入居者の生活を大きく変えずに、相続人の管理負担を手放せる可能性があります。
家賃収入が査定材料になる
すでに入居者がいて家賃が支払われていることは、買主にとって収益を見通す材料です。長期入居、滞納の有無、保証会社の利用状況なども確認されます。
空室になるまで待たなくてよい
退去時期が決まっていない物件でも売却活動を始められます。ただし、居住用の空き家として売る場合とは市場や査定方法が異なるため、賃貸物件の売買に慣れた相談先を選ぶことが大切です。
価格は家賃と将来の費用から見られます
投資用不動産では、年間家賃収入を価格で割った「利回り」が判断材料の一つになります。しかし、表示上の利回りだけで価格が決まるわけではありません。
- 現在の家賃が周辺相場と合っているか
- 滞納や空室がどの程度あるか
- 管理費、固定資産税、保険料はいくらか
- 屋根、外壁、給排水設備などに修繕予定があるか
- 再募集時に家賃が下がる可能性があるか
- 土地と建物の権利関係に問題がないか
高く売るために先に大規模修繕を行うことが最善とは限りません。現状の査定額、修繕費、修繕後の想定価格を並べてから判断すると、不要な先行支出を避けやすくなります。
入居者へ退去を求めれば高く売れるとは限りません
空室にすれば居住用として販売できる可能性はありますが、貸主の都合だけで入居者に退去を求められるとは限りません。普通建物賃貸借では、貸主による更新拒絶や解約申入れに「正当事由」が求められます。正当事由は、貸主と借主が建物を必要とする事情、これまでの経過、利用状況、建物の状態、立退料の申出などを総合して判断されます。
売却したいという理由だけで退去が認められると断定はできません。無理な要求や鍵の交換、ライフラインの停止などは行わず、退去を検討する事情がある場合は弁護士へ相談してください。
売却前に入居者へ知らせるタイミング
売却活動の初期から、入居者へ不安を与える形で連絡を繰り返す必要はありません。一方、所有者や家賃の振込先、管理会社が変わる場合は、買主や管理会社と調整し、適切な時期に書面で案内します。
案内には、新しい所有者・管理会社、変更日、家賃の支払先、問い合わせ先、敷金等の取扱いを分かりやすく記載します。振込先変更を装った詐欺と誤解されないよう、旧所有者側と新所有者側の連名にするなど、伝え方にも配慮しましょう。
相続した賃貸物件を売る6つの手順
- 相続関係と登記を確認する
戸籍、遺言、遺産分割の状況を整理し、売却できる名義にします。 - 契約と収支の資料を集める
賃貸借契約、家賃台帳、敷金、管理費、修繕履歴を確認します。 - 現地と建物状態を確認する
共用部、外壁、屋根、設備を確認し、既知の不具合を整理します。 - 賃貸中の状態で査定を受ける
年間収入と支出を示し、想定価格と販売方法を比較します。 - 仲介と買取を比較する
価格、期間、内覧、契約条件、責任範囲の違いを確認します。 - 買主への承継事項をまとめる
契約、敷金、鍵、入金、管理、入居者への通知を引き継ぎます。
2024年4月1日から相続登記が義務化されています。原則として、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が必要です。個別の登記手続は司法書士等へ確認してください。
仲介と買取はどちらが向いている?
| 比較項目 | 仲介 | 不動産会社の買取 |
|---|---|---|
| 買主 | 主に投資家を探す | 不動産会社が直接購入 |
| 価格 | 市場で条件の合う買主を探せる | 再販売費用等を考慮した価格になりやすい |
| 期間 | 買主が見つかるまで変動する | 条件が合えば短縮できる場合がある |
| 向く状況 | 資料が揃い、時間をかけて比較できる | 遠方管理や修繕負担を早めに整理したい |
どちらがよいかは、希望価格だけでなく、相続人の人数、管理負担、修繕予定、売却期限によって変わります。査定を受けたから売却を決める必要はありません。
不動産あんしん相談室へ相談できること
- 賃貸中のまま売却する場合の現状査定
- 契約書、家賃、敷金、修繕履歴の整理
- 仲介と買取の条件比較
- 遠方にある物件の管理負担の整理
- 相続登記や入居者対応で専門家へ確認すべき論点の整理
売却を強く勧めるのではなく、保有を続ける場合の収支や管理委託も含めて比較します。法律上の判断や交渉が必要な場合は、弁護士・司法書士等と連携して進める範囲を整理します。何を調べればよいか分からない段階でもご相談ください。
よくあるご質問
入居者がいても内覧できますか?
居室内の確認には入居者の理解と日程調整が必要です。無断で入室することはできません。外観、共用部、図面、過去の写真、修繕記録などで販売を進め、必要な場合だけ管理会社を通じて丁寧に相談する方法があります。
売却すると賃貸借契約は終わりますか?
オーナーチェンジでは、通常は賃貸借関係を買主へ引き継ぐ前提で売却します。契約形態や対抗要件、敷金の扱いなどは個別確認が必要です。契約書と入居状況を不動産会社や弁護士に確認してもらいましょう。
入居者に売却を反対されたら売れませんか?
所有者が物件を売却すること自体について、一般に入居者の同意を要しない場合があります。ただし、賃借権や生活への配慮は必要で、内覧や契約変更を一方的に求めることはできません。個別の契約と権利関係を確認してください。
家賃滞納がある物件も売却できますか?
検討はできますが、滞納額、督促履歴、保証会社、法的手続の有無を買主へ説明する必要があります。滞納を隠すと契約後のトラブルにつながります。回収や明渡しの判断は、自己判断で進めず弁護士へ相談しましょう。
契約書が見つからなくても査定できますか?
通帳の入金記録、管理会社の明細、更新書類、固定資産税通知書など、分かる資料から概算査定を検討できます。契約内容が不明な点は価格や条件に影響するため、入居者へ連絡する前に整理方法をご相談ください。
共有名義でも売却できますか?
不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の合意が必要です。各共有者の持分だけを処分する方法もありますが、価格や家族関係への影響が異なります。遺産分割と併せて専門家へ確認しましょう。
まとめ|退去を求める前に、賃貸中のまま売る方法を比べましょう
入居者がいる相続不動産でも、賃貸借関係を引き継ぐオーナーチェンジとして売却できる可能性があります。まず名義、契約、家賃、敷金、滞納、修繕履歴を整理し、賃貸中の状態で査定を受けてみましょう。
空室にすれば高く売れるとは限らず、貸主側から退去を求める場合には法律上の検討が必要です。入居者の暮らしを尊重しながら、保有、管理委託、仲介、買取を比較することが安心につながります。
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