本稿は、公的機関の資料と不動産実務上の確認項目を基に作成した一般的な情報です。法律・税務・会計上の扱いは、契約内容や個別事情によって異なります。個別の法律問題は弁護士、登記は司法書士、税務は税理士、会計は公認会計士へご確認ください。
事業用リースバックとは、自社ビルや工場などを売却し、買主と賃貸借契約を結ぶことで、売却後も同じ物件を使い続ける方法です。ただし、売却価格だけでなく、毎月の賃料、契約期間、抵当権、事業収支を確認する必要があり、すべての物件で利用できるわけではありません。
「自社ビルを資金化したいが、移転は避けたい」
「工場の売却が必要だが、操業を止められない」
「借入返済や税金の支払いに備えて、所有不動産を現金化したい」
このような場合、事業用リースバックが選択肢になる可能性があります。
ただし、リースバックは単純な資金調達ではありません。不動産の所有権を手放し、その後は賃借人として賃料を支払う取引です。通常売却、不動産担保融資、任意売却と比較し、資金化できる金額だけでなく、売却後の事業収支まで確認する必要があります。
事業用リースバックの仕組み
事業用リースバックは、売却と賃貸借契約を組み合わせた取引です。
- 法人または経営者が所有する不動産を買主へ売却する
- 売却代金を受け取る
- 同時に買主と賃貸借契約を結ぶ
- 売却後は賃料を払いながら物件を使用する
売却後の所有権は買主へ移ります。そのため、「不動産を手放さず資金化する方法」ではなく、「所有権を手放す代わりに、契約により使用を継続できる可能性がある方法」と理解することが重要です。
対象になり得る事業用不動産
自社ビル
本社機能や営業拠点を移転せず、土地・建物を資金化できる可能性があります。ただし、売却後の賃料、必要な面積、将来の移転計画まで確認します。未使用部分が多い場合は、一棟を借り続けるより縮小移転が適することもあります。
工場
工場は、用途地域、接道、建築確認、設備、操業上の許認可、土壌・地下水、修繕負担などの確認が必要です。機械設備、配管、受変電設備等を売買対象に含めるかも整理します。
倉庫
倉庫では、立地、接道、床荷重、天井高、搬入経路、用途、稼働状況などが評価に影響します。移転により配送費や取引先対応が変わる場合は、その影響と賃料を比較します。
事務所・店舗
立地自体が顧客認知や売上に関係する店舗では、現在地を使用し続ける利点があります。一方、売上に対して賃料が高すぎると、中長期的には収支を圧迫します。
社長個人名義の不動産
社長個人が所有する不動産を法人が使用している場合も、検討できることがあります。ただし、売却代金の帰属、法人が支払う賃料、個人・法人間の契約、関連当事者取引等の確認が必要です。
利用を検討しやすいケース
- 移転による休業や顧客離れを避けたい
- 工場設備の移設を避けたい
- 自社不動産を現金化して運転資金を確保したい
- 借入金の圧縮や返済原資を検討している
- 数年後の移転まで現在地を使用したい
- 通常売却、担保融資、任意売却を含めて比較したい
不動産を所有し続けることよりも、現在の場所で事業を続けることに価値がある場合、検討する意味があります。
利用が難しいケース
- 売却後の賃料を継続して支払える見込みが乏しい
- 借入残高や滞納額が想定売却価格を大きく上回る
- 抵当権者や差押債権者との調整ができない
- 共有者が売却に同意していない
- 建築、用途、境界、環境等に重大な問題がある
- 物件の特殊性が高く、買主が限られる
- 短期間での買戻しを絶対条件としている
- 売却後の賃料によって事業収支が悪化する
利用可否は不動産価値だけでなく、事業収支、債務、権利関係、契約条件を含めて判断します。
売却価格と賃料はどう決まるか
事業用リースバックの売却価格は、一般市場での売却価格と同じになるとは限りません。
買主は、次の要素を考慮します。
- 不動産の市場性と流動性
- 売却後の賃料
- 契約期間
- 修繕負担
- 将来の再募集・再売却
- 空室リスク
- 投資家が期待する利回り
考え方の一例は、次のとおりです。
年間賃料の参考値=売却価格×想定利回り
これは考え方を説明する式であり、実際の査定価格や賃料を示すものではありません。
高い売却価格を希望すると、買主が必要な収益を確保するため、賃料も高くなる可能性があります。「高く売ること」と「低い賃料で借りること」を同時に実現できるとは限りません。
売却後の事業収支を確認する
リースバックを検討する際は、売却直後に得られる資金だけで判断しないことが重要です。
- 売却によって手元に残る金額
- 契約期間中に支払う賃料総額
- 賃料を加えた後の事業収支
- 修繕、保険、共益費、原状回復等の負担
- 売上が下がった場合の支払余力
売却直後に資金を確保できても、賃料が事業収支を圧迫すれば、資金繰りの問題を先送りする可能性があります。
審査で確認される主な項目
- 物件所在地・種類・利用状況
- 所有者と共有者
- 市場性・流動性
- 建物・設備の状態
- 借入残高・抵当権
- 税金滞納・差押え
- 希望売却価格
- 必要資金額
- 希望する使用期間
- 支払可能な賃料
- 法人の売上・利益・資金繰り
- 売却後の事業計画
- 退去・買戻し希望
法人が赤字であるという理由だけで一律に決まるものではありませんが、売却後の賃料支払能力は重要な判断材料です。
事業用リースバックのメリット
移転せずに資金化できる可能性がある
設備移設、休業、顧客や取引先への移転案内などを避けられる場合があります。
不動産に固定されていた資金を利用できる
売却代金から借入金等を精算した後に資金が残れば、運転資金、借入返済、設備投資などを検討できます。
営業場所を維持できる可能性がある
外観や営業場所を変えずに事業を継続できる場合があります。ただし、売却を完全に秘匿できることを保証するものではありません。
不動産保有コストを見直せる
固定資産税や大規模修繕などの負担関係が変わることがあります。売却後の修繕や保険の負担は、契約で確認します。
デメリットと注意点
所有権を失う
売却後の不動産は買主の資産です。自由な改修、売却、担保設定はできなくなります。
賃料の継続負担が発生する
まとまった売却代金を得ても、その後は毎月賃料を支払います。複数年の収支確認が必要です。
契約終了時に退去が必要になる場合がある
賃貸借契約の種類や期間によっては、期間満了後に使用を続けられない場合があります。
買戻しは保証されない
買戻し条件を合意できる場合はありますが、買戻し価格、期限、行使方法、第三者売却時の扱いを契約で確認する必要があります。
通常売却より価格が低くなる場合がある
買主が賃貸運用、修繕、将来の再売却リスクを負うため、一般市場での売却価格と同じにならない場合があります。
通常売却・担保融資・任意売却との比較
| 方法 | 所有権 | 移転 | 売却・借入後の支払い | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 事業用リースバック | 買主へ移転 | 不要な場合あり | 毎月の賃料 | 賃料、契約期間、退去条件 |
| 通常売却 | 買主へ移転 | 原則必要 | 原則なし | 移転費用、休業、設備移設 |
| 不動産担保融資 | 維持 | 不要 | 元金・利息 | 審査、返済能力、担保評価 |
| 任意売却 | 買主へ移転 | 原則必要 | 残債の扱いを調整 | 債権者の同意、期限 |
どの方法が有利かは、価格だけでは判断できません。移転費用、休業影響、借入返済、売却後の累計賃料まで比較します。
契約期間・更新・退去条件
契約前に、少なくとも次を確認します。
- 普通借家契約か定期建物賃貸借契約か
- 契約期間
- 更新・再契約の可否
- 賃料改定の条件
- 中途解約
- 原状回復
- 設備・修繕の負担
- 転貸・用途変更・改装の制限
- 契約違反時の解除条件
- 退去・明渡し条件
「売却後も使える」という説明だけではなく、事業に必要な期間を確保できる契約か確認してください。
抵当権がある場合
抵当権付き不動産でも、売却と同時に抵当権を抹消できる見込みがあれば、売却を検討できる場合があります。
想定売却価格-売却諸費用-借入残高-滞納額
売却代金で借入金等を精算できない場合、抵当権者の同意なしに抹消できるとは限りません。その場合は、任意売却としての調整が必要になる可能性があります。
税金滞納・差押えがある場合
差押えがある場合は、売却代金の配分や差押解除について関係機関との調整が必要です。
差押えがあるから直ちに売却できないとは限りませんが、解除条件を満たせなければ所有権移転ができません。公売手続が進んでいる場合は、通知書に記載された機関、期限、滞納額を確認してください。
手続きの流れ
- 物件・所有者・借入状況を整理する
- 不動産を査定する
- 借入残高・抵当権・差押えを確認する
- 通常売却・担保融資・任意売却と比較する
- 売却価格・賃料・契約期間を確認する
- 複数年の事業収支を試算する
- 法務・税務・会計上の確認を行う
- 売買契約・賃貸借契約を確認する
- 抵当権等を調整する
- 決済・所有権移転後、使用を継続する
必要書類の例
- 登記事項証明書
- 固定資産税納税通知書・評価証明書
- 公図・測量図
- 建築確認済証・検査済証
- 図面・設計図書
- 借入残高証明・返済予定表
- 抵当権・差押え関係書類
- 税金滞納に関する通知
- 決算書・試算表・資金繰り表
- 工場設備・許認可・環境調査関係資料
よくある失敗
売却価格だけで選ぶ
高い売却価格は魅力ですが、賃料や買戻し価格も高くなる可能性があります。売却代金、賃料総額、契約期間を一体で比較します。
一時的な資金だけで賃料を判断する
売却直後に支払えても、数年後まで継続できるとは限りません。売上が下がった場合も試算します。
契約期間を確認しない
希望期間より短い契約だった場合、契約終了後に退去が必要になることがあります。
工場設備と不動産の範囲を決めない
機械設備、配管、受変電設備、残置物などの所有権、修繕、撤去負担を明確にします。
抵当権や差押えを後から伝える
権利関係は査定や売却手続に影響します。相談段階から正確に共有することが重要です。
想定事例:工場を使用しながら資金化を比較
以下は仕組みを説明するための一般化した想定例であり、実際の解決実績ではありません。
製造業を営む法人が、会社所有の工場を使用していました。設備投資と借入返済が重なり、運転資金の確保が課題になりました。
通常売却して移転すると、設備移設、休業、許認可確認が必要です。そこで、通常売却と移転、不動産担保融資、リースバック、事業規模の見直しを比較しました。
リースバックについては、売却価格だけでなく、複数年の賃料、修繕負担、契約期間を事業計画へ反映しました。
重要なのは、リースバックを利用できるかだけではなく、どの方法なら必要な資金を確保し、事業収支を維持できるかを判断することです。
よくある質問
赤字法人でも利用できますか?
検討できる場合はあります。ただし、売却後の賃料支払能力や事業改善の見込みが確認されます。
抵当権が残っていても売却できますか?
売却と同時に抵当権を抹消できれば可能です。売却代金で借入を完済できない場合は、債権者との調整が必要です。
税金滞納があっても利用できますか?
検討できる可能性はありますが、差押えの有無と解除条件の確認が必要です。
工場の機械設備をそのまま使えますか?
使える場合はありますが、設備が売買対象か、所有・修繕・撤去を誰が負担するかを契約前に決めます。
売却したことを従業員や取引先に知られますか?
営業場所が変わらなければ影響を抑えられる場合があります。ただし、登記情報などから完全に秘匿できるとは限りません。
賃料はいくらになりますか?
売却価格、立地、用途、契約期間、修繕負担、買主の想定利回りなどにより異なります。
何年間使い続けられますか?
賃貸借契約によります。契約期間、更新、再契約、退去条件を確認してください。
将来買い戻せますか?
買戻し条件を設定できる場合はありますが、実現が保証されるものではありません。
社長個人名義でも利用できますか?
検討できる可能性があります。ただし、個人と法人間の契約、税務、会計処理を確認する必要があります。
通常売却とどちらが高く売れますか?
一般市場で購入希望者を広く募集できる通常売却のほうが高くなる場合があります。移転費用や休業への影響も含めて比較します。
担保融資とどちらがよいですか?
所有権を維持しながら返済できる場合は担保融資、借入を増やさず現金化したい場合はリースバックが候補になります。財務状況により判断は異なります。
任意売却と併用できますか?
債権者の同意を得て売却し、買主と賃貸借契約を結ぶ方法を検討できる場合があります。債権者・買主双方との調整が必要です。
まとめ
事業用リースバックは、自社ビル、工場、倉庫などを売却し、賃料を払いながら使用を続ける方法です。
移転による影響を抑えながら不動産を現金化できる可能性がありますが、所有権を失い、売却後は賃料負担が発生します。
判断する際は、査定価格、借入残高、抵当権、税金滞納、売却後に残る資金、支払可能な賃料、必要な利用期間を整理し、通常売却、担保融資、任意売却と比較してください。
自社ビル・工場を「売った後」まで含めて比較します
不動産あんしん相談室では、リースバックだけに限定せず、通常売却や任意売却などを含めて状況を整理します。
相談時に次の情報が分かると、検討が進みやすくなります。
- 物件所在地
- 物件種別
- 所有者
- 借入残高
- 抵当権
- 税金滞納・差押え
- 希望する資金額
- 支払可能な月額賃料
- 希望利用期間
- 現在困っている期限
本記事は一般的な不動産情報の提供を目的としており、法律・税務・会計上の個別判断を行うものではありません。抵当権、差押え、任意売却、賃貸借契約等については弁護士・司法書士へ、税務・会計については税理士・公認会計士へご確認ください。
不動産のお悩みLINE無料相談実施中
当相談室では、LINEでの無料相談を実施しております
※氏名および地域名を公表いただける方のみ
お電話の場合は30分無料、その後30分毎に5,000円(税別)で対応可
(料金は先払いとなります。また土日祝はLINE相談のみ)
無料相談内でご満足いただけた場合は、口コミ投稿をお願いしております
LINEでお気軽にご相談いただける体制を整えておりますので、1人で悩まず、ぜひ一度不動産あんしん相談室までご相談ください。
電話:0120-619-099(通話料無料、土日祝不可)
メール:お問い合わせフォーム
LINE:不動産あんしん相談室「LINE」お友達登録









